よい酒はよい⽶から―農家と酒蔵

日本酒の原料は米です。小学生でも知っている常識かもしれませんが、もう少し掘り下げると米でも“酒米(さかまい)”という原料を使います。さらに掘り下げると、酒米にも酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)という、よりお酒に適した米が存在します。

酒造好適米は、純米酒や吟醸酒といった付加価値の高い日本酒に使用されることが多く、現代の高級清酒を支えている絶対的存在と言っても過言ではありません。おそらくそれはこれからも変わることがなく、その必要性はさらに高まるものと思われます。

ところが、この絶対的存在であるはずの酒造好適米の生産者、つまり酒米農家のほとんどは、それらがお酒になるというイメージを持って生産していないという現実があります。収穫された米は農協に出荷しますが、どこの酒蔵が使うか分からずとも等級検査で1等が取れればいいというのが、多くの農家さんの実情ではないでしょうか。

これは農家だけの問題ではありません。酒造りをする米として、どのようなクオリティを求めているのかを伝えてこなかった酒蔵の怠慢と、農協という組織が両者の関係を見えにくくしてしまったこともその一因でしょう。

酒造好適米は、食用米の旨(うま)みの素となるタンパク質や脂肪が日本酒にとっては雑味の原因になるため、それらの成分が少ないものが品種登録されています。しかし、それを知らずに栽培を続ける農家は意外と多いのです。

また商社でもある農協は、肥料や農薬といった資材販売もしているため、普及員はそれらを使った栽培を提案します。結果、酒米には過剰なタンパク質が土壌に加わり、本来のポテンシャルを発揮できない米が生産されてきました。

ある時、ふと脳裏に浮かんだのです。これらの問題は、それぞれの農家のみなさんに米が発酵によって生まれ変わっていくイメージがしっかり刻まれるなら解消されるのではないか・・・、と。

契約栽培―酒造りのよろこびを

90 年代の初頭、私たち山根酒造は、この考えのもと、農家との直接対話に踏みきりました。具体的には窒素系(化学)肥料と農薬使用を、一般的な栽培の半分に抑えてもらうこと。さらには田植えを1か月程度遅らせて稲の登熟期をずらし、高温障害を減らすこと、2点の提案でした。今でいう特別栽培農産物の先駆けですが、当時このような取り組みをする生産者はまだなく、当然なかなか理解はされません。

「栽培方法を変えることで酒がどう変わり、飲み手がどんな反応をするのか知りたくはありませんか?」「普通にお米を作っているより面白いと思いませんか?」

そんなやりとりを重ねて散々ねばったところ、根負けした3つの農家さんがつき合ってくれることになりました。これが弊社の契約栽培の始まりです。

平成 7 年秋、結果はすぐに現れました。

天候不順の影響もあり、この年の等級検査の 1 等米比率は過去二番目に悪い状況のなか、この3軒の農家は 1 等米となったのです。1 等米は平年の特上(6 段階の最上)に匹敵すると言われたほど出来の悪い年だったので、これはかなり大変なことでした。

農家さんの喜びもさることながら、その米で仕込まれた酒はやはり素晴らしいものでした。私どもが酒の味を表現する際に「弾力性」「跳ね」という言葉を使うきっかけとなったのも、この酒との出会いだったように思います。

またこの出来事は、私どもにとっても農家さんにとっても、明るい波紋となり、大きな励みとなりました。明らかに違う作用が起き、違うものが生まれている。やっていて楽しいし面白い。さらにはできたものを一緒に喜んでくれる相手がいる。

「よい酒にしてもらえよ」 そんな気持ちで送りだされる米、それをありがたく受けとる醸造家。モノづくりの醍醐味ってこれなんだな。

あれから20年、新しい契約農家も加わり、その輪は大きく広がりました。私たちは、それぞれの農家で栽培が始まる春の苗作りから実りの秋まで、何度となく訪れては田んぼを観察しています。

そして収穫された酒米が玄米となって手渡され、それまで見てきた稲の育ちの記憶を辿りながら、その米がどうしてほしいのか、どうすればその米を最大限に活かすことができるのか、感性で判断する習慣も備わりました。

生産者も違えば育った環境も違うそれぞれの米たちは、おのずと性格も異なります。酒の再現性にはこだわらず、米の力を感じとり、その仕上りの完成形を先にイメージして製造設計を立てています。

この⽶がこの酒になる―シングル醸造の採⽤

現在の山根酒造場は、米の生産者ごとに仕込桶をたてています。基本は他の生産者の米と混ぜない「シングル醸造」です。非常に煩雑で無駄もともない、蔵人にも負荷がかかる方法ですが、やった者だけが得られる成果もありました。それまで製造工程で起きると思われていた要因が、実は米に由来するもので、その田んぼの土壌によるものだったり、除草剤の影響だったり――ずっとブラックボックスの中で片づけられていたことへの様々な発見がありました。

さらには、日置桜を愛飲してくださる方のなかに米生産者のファンも生まれるという現象も起き、農家さんのモチベーションの向上にもつながっています。これこそがシングル醸造の大きな成果だと感じています。

私たちが提唱する「醸は農なり」は、以上のような経緯で生まれた言葉です。当たり前のことをきちんと向き合ってやることの大切さ、伝統産業の誇りを失わないよう、自らを戒める意味でも使っている言葉です。

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