契約農家のご紹介

01.内田寿郎さん

内田百種園|鳥取県八頭郡

米作りは土作りから

内田百種園の田んぼは、鮎も遡上(そじょう)する八東(はっとう)川の流れる鳥取県八頭(やず)郡八頭町にあります。もともとは葉タバコ中心の農家だった先代の内田敬一郎さんが、2005年から酒米作りに挑戦したのが内田百種園の酒米作りのはじまりでした。初年にできた米の評判がよく、翌年の2006年からは息子である寿郎(じゅろう)さんも加わり本格的な酒米作りがスタート。同年より山根酒造にも酒米を卸し、現在は寿郎さんの作った強力(ごうりき)米と山田錦を使って日置桜の純米酒・鍛造シリーズが仕込まれています。

日置桜・鍛造シリーズ「鍛造にごり山田錦」と「鍛造生もと強力純米」

内田百種園の米作りは、まずは春に山から腐葉土や赤土、黒ぼく土(火山灰土)からなる原野土をとってくることから始まります。そこに焼きすくもと呼ばれるお米のもみ殻をいぶしてつくった薫炭(くんたん)や発酵鶏糞、米ぬか、自家製の竹パウダーなどとともに混ぜて栄養いっぱいの土を作るのです。

土に薫炭を加える理由は、もみ殻は炭化することで表面に無数の穴があき、それが苗が育つのに有効な働きをする微生物が繁殖する家になるから。そして、農薬や化学肥料を使わず土地の持つ力を最大限に活かしたバイケミ農法にこだわる理由は、苗を甘やかさず自然な状態で育てなければ、その影響が最後の最後に米に出てくるということを、これまでの経験から痛感しているから。

田植えをするまで苗箱のなかで育つ苗は、人間でいえば赤ちゃんと同じ。健康な苗を育てることは、稲作りにとってベースとなるとても大切な作業です。それに加えて、もともと強力も山田錦も背丈が高く倒れやすい品種ということもあり、強い茎を作るために苗箱はビニールハウスに入れず自然に放置して育てます。発芽したら苗箱は路地に広げ、朝夕の寒暖差のある自然の気温の変化のもとで鍛えることで、田植え後も少々の雨風では倒れない丈夫な稲に育てるのです。

苗箱の中で育つ、酒米の苗の赤ちゃん

内田百種園の苗の根元はかじってみると甘味があります。しかし、どの酒米の苗でもそうかと言えば「化学肥料をやって育った苗は、見た目は同じように見えてもどうしても苦味を感じてしまう」と話す内田さん。こうやって手間ひまかけて、自然の変化に沿いながら秋に収穫の時期を迎えた内田さんの酒米は、雑味のもととなるタンパクの数値が6%代と非常に低く、心白(しんぱく)と呼ばれる白く不透明な部分が中心に集まっているのが特徴です。

循環型農業で生態系を守る

内田さんの田んぼをじっと見ていると、ここが稲だけでなく小さな生きものたちのすみかであることがわかります。至るところでピョコピョコ跳ねる小さなカエルやバッタたち。田んぼをひとつひとつ案内してくれる内田さんの後をついて歩くと、こんな話が聞けました。

「いまや日本のほとんどの田んぼが生態系がきちっとできていない環境で米を育てているんではないでしょうか。この辺りの田んぼでもタガメやタイコウチはもういなくなってしまいました。一度失った自然はそう簡単には戻ってきません。人間が気づくころにはもう手遅れになってしまうんですよね」

「除草剤を使った田んぼは、確かに整った稲にはなっていますが、生きものがおらず水の暗さが気になります。そういう田んぼにはカエルもほとんどいませんよ。動物が住めないようなところで、いいものが育つわけがないんです」

「うちの田んぼにはおたまじゃくしがいるから、それを餌とする鷺(さぎ)もやってくる。農薬を多く使う田んぼのうえにはトンボが飛ばない。そんなもんなんです。完全無農薬で除草剤を一切使わないとどうしても雑草はすぐに生えてしまって、人手がないなかでの世話はとても大変ですが、できるだけ自然と共存しながらやっていきたい」

カエルや鷺も集まる内田さんの田んぼ

除草作業だけでも、田んぼをひとまわりしてまた元に戻ってきたころには新しい草が生えている。すべてが気が遠くなるくらい面倒な作業をなぜあえてするかといえば「良さをわかってくださる人がおられるから。顔も知らない方から『おいしい』と言ってもらえることが一番の励み」なのだと内田さんは言います。

内田さんの米は酒に醸したときに「甘・辛・酸・渋・苦」という五味だけでは表現できない滋味を感じます。そして一口飲むと疲れた体の内側からじわじわと活力が湧いてくるような力強さと優しさがあり、ふだん日本酒をあまり吞まれない方のなかにも熱烈なファンを生んでいます。

今回、田んぼに通い改めて思うのは、舌でわかる酒のおいしさだけでなく、吞み手の方々は内田米で造る酒から、この土地の持つエネルギーのようなものを本能的に感じとっておられるのでは? ということです。

鍛造シリーズを飲んでいただくことで、内田さんの米作りにかける愛情やモノ言わぬ生きものたちへの眼ざしのようなものが少しでも伝わればいいなぁと思いつつ、田んぼを後にしました。

収穫の時(2016年10月訪問時に撮影)

Side Story|内田家の食卓

「無農薬のいい米であれば、ぬかも安心して使えてすべて無駄がないの。ぬか自体にも甘味を感じるのよ」とぬか床に入ったきゅうりや茄子を愛おしそうに眺めるお母さんの桂子さん。

春に苗箱を広げる作業をお手伝いしにいった際にふるまっていただいたお昼ごはん。食をとても大切にしている内田家の食卓には、旬の野菜を使った手作りの煮ものや漬けもの、梅酒やおはぎなどがずらりと並ぶ。どれも体の隅々までしみわたるような美味しさ。

※「鍛造にごり」と「鍛造生もと」は、蔵元からだけでは伝えきれない商品の魅力を専門店(酒販店)さまがお客さまに伝えてくださったことで育ったお酒です。そのため、数が大変限られることもあり当サイト内での販売は行っておりません。また恐れながら取扱店舗も限定させていただいております。お手数ですが、上記の商品にご興味のあるお客さまは、こちらよりお問い合わせください。