母の味

先日、お酒の配達がてら西伯郡大山町にある、はた酒店へ行ってきました。
日曜日ですが伺ったのには理由があります。はた酒店では、酒屋の二階を改装してカフェをされていて、週に2回、日曜と月曜だけ日替わりのランチを出されているのです。

そしてこちらが、そのときのメニュー。地場野菜もたっぷり。

一口食べると、じわ~と身体に沁み入るこの感じ。美味しい、そして限りなくやさしい。なんだろ? 外食なんだけどいわゆる外食っぽくない。たとえるならお母さんが家族のためを思って、丁寧に手をかけ作ってくれたうちご飯。

見た目だけお洒落な巷によくあるカフェごはんとは完全に一線を画す、そんなランチでありました。

すべて完食し終わって思ったのは、これは店主である畑真理子さんのお人柄そのものが出た味なのだろうなということ。

いつも笑顔であたたかく迎えてくれる、みんなのお母さんのような真理子さん。そして一緒に働く女性スタッフのみなさんにもそのホスピタリティは伝播しています。

食べ終わったあと「しっかり食べたのに、とても身体が軽い感じがします」と伝えたら、自分自身の身体が敏感になっているので、食材も調味料もおかしなものを使っていると身体が反応してしまう。だから、提供するお料理の素材選びには細部まで気を配っているということを教えてくださいました。

舌先だけで美味しい料理は世の中にたくさんありますが、食べおわったあと、ほっと心が安堵するようなごはんには必ずその仕組みがあり。食べたあとの身体のことまで考えて作られた料理だからこそ、一口かみしめるごとに「なんだか私、大事にされているなぁ」という気持ちになるのだと思います。

そのほかにも畑さんは、地元大山町でまっとうにおいしいものを作っている生産者の方々のネットワークをつないだ詰め合わせギフトセットを企画し、お店で販売もされています。表面的にだけ見ると酒屋でなんでジャム? 酒屋でなんでお茶まで? 手を広げすぎなのでは? と思う方もあるかもしれないけれど…。

ここからは推測ですが、たぶんうちの酒をわざわざ選んで飲んでくださっているお客さまは、食についてもある種のセンサーみたいなものを持っておられる方だと私は信じているのですが…。

ただ安ければいいとか分かりやすい美味しさだけではなく、こういったまっとうに作られた美味しい食べ物をちゃんとおいしいと感じ、選んでくれる方がいなくなったら、そのときはうちのようなお酒だって売れなくなるような気がしています。

食と酒は切っても切り離せないもの。

だから真理子さんがされている活動も、もしかしたらお店の売り上げにはすぐに直結しないかもしれないけれど、根底に「時間をかけても繊細な味覚を持った人を育てること」、未来の吞み手を育てるということへも繋がる強い情熱と意志みたいなものを感じます。でないとこんな手間のかかるランチ、900円(最後に飲み物もついて)でとてもとても作ってられない!

そして、ふりかえって山根酒造では何が出来ていて何が出来ていないかを考えるきっかけにもなりました。

本当はこうしたい!という理想と今すぐに出来ることとの間には、ギャップがあって。自分の力量不足をはじめとしてもどかしいことや悩むことも色々ありますが、諦めず焦りすぎず出来ることからひとつひとつ積み重ねていく。結局のところそれしかないのだろうと思います。(頭でわかっていても、どうしてもまだまだちょっとしたことで一喜一憂しがちですが…)

さて、願わくばこのランチを頂きながら一杯おいしいお酒を飲みたかったのだけれど、車なのでそこはぐっと我慢!

決して利便性のいい場所ではありませんが、わざわざ足を運ぶ価値がある、そんなお店です。

「はた酒店」
住所 〒680-3124 鳥取県西伯郡大山町上市268
営業時間 9:00~20:00(ランチは毎週日、月曜 11:30~13:30のみ)
定休日 火曜
HP   http://www2.sanmedia.or.jp/noccari/

                   (食と酒の実験室 山根明子)