先日とある農家さんのご自宅であったお料理とお酒を味わう会での出来事。
普段から、日置桜を飲んでいるとおっしゃる女性のお客さまに、いつもうちで飲むくらいのアツアツのお燗酒を味わって頂いたところ、一瞬でパっとお顔の表情が変わって「うわっ、おいしい~!家でも同じ銘柄のお酒を飲んでるはずなのに。温度ひとつでこんなに味が変わるんですね。まだまだ本当の美味しさを引き出せてなかった。精進します。」と言っていただくことがありました。
鳥取に帰ってきてからというもの「山陰は純米燗酒のメッカ」と言われていても、意外とまだまだ「いい酒は冷やで飲むもの」という固定概念をお持ちで、それ以外にはチャレンジしたくない方も多いんだな~(←傾向として特に年配の男性に多い)と感じることが続いていただけに、こういう素直で柔軟なリアクションはとても嬉しく励みになるものでした。
日本酒は温度によって味が変化するお酒ですが、そのなかでもうちは搾ってすぐの状態では苦苦の渋々で時間経過を経て味がのってくるお酒だったり。適切な温度までぐぐっと上げて、一手間かけることではじめて味がふくらむ、そんな社長いわく「面倒な酒(やんちゃで手のかかる子)」も多い酒蔵です。
だからこそお酒を造るだけで終わらず、造ったお酒を最後の最後のお客さまの口に入るまで、造り手が設計したイメージの味でつないでいくためには、まだまだこちら側の伝える努力や伝え方の工夫も必要なのだなということを、社長と改めて話しあいながら帰ってきました。
お酒はお金を払って買った人がどう飲もうと勝手!というのもひとつの考え方ではありますが…。
アツアツで食べて欲しいと思って作った料理をすっかり冷めてから味わってもらったり、冷たい状態で食べてもらいたい料理がいつもぬるくなってから手をつけられたのでは、やっぱり悲しいですものね。なんとなく、それと同じだなぁと思います。
そうそう、以前、船橋にある「酒のはしもと」の正木社長が「ビビリ燗」という言葉を使われていて。その言葉のチョイスになるほどと思わず唸ってしまいましたが、うちの酒は中途半端な温度でビビって妥協してしまうと本当のおいしさは引き出せない、そんなタイプのお酒が多いように思います。
「失敗」なんて言葉はどこ吹く風。どうぞご自宅では、勇気を出して飛び切り燗やら、いろいろな温度での飲み方にもどんどんチャレンジしてみられてはいかがでしょうか。これまで経験したことのない未知の世界の扉が開くかもしれませんよ。
私もまだ知らないことだらけ、日々精進してまいります。
(ちなみにネットで飛び切り燗の温度を調べると、55℃と出てくることが結構多いのですが、我々の飛び切り燗の感覚は60~65℃くらいです。写真は生もと玉栄 23BYの裏貼り。表だけでなく裏ラベルもじっくり読むと、いろいろなメッセージが含まれていて楽しいです。)