枠越えの酒
日置桜五代目蔵元・山根正紀が、東京での修行時代を経て蔵に戻り、今年の7月で早いもので30年になります。先代が中心となって酒造りを指揮していた頃は、世の中的にも吟醸酒を極めることに価値が置かれ、スター杜氏と呼ばれる人たちの存在がもてはやされた時代でもありました。
「吟醸酒という花形で成功しなければ、スターダムには上がれない」
この酒造業界で起こった大きな流れが、残念ながら日本酒を「人の暮らし」というものから乖離させていった。振り返ると、そんな一面もあったように感じています。
日本酒が業界内のコンクールの場では、飲むことを前提としない「利き酒」という方法で評価され、甘さや香りといった分かりやすさに偏った、ゲーム性の強い捉え方に絡め取られていってしまったこと。
そこに異を唱える少数派の人たちと協力しあい、吟醸でなくとも、もっと普段の食卓に寄り添える酒を伝えていきたい。そうしなければ日本酒に未来はない。
そう思って、これまで活動を続けてきました。
そして今、日本酒とはそもそも何なのか?
なぜ、日本酒は必要なのか?
という問いに対して、山根酒造場はこう考えます。
「酒はもともとは神様に捧げるもの。日本の人々は米というものに敬意を払って生きてきた。酒造りは誰にでも出来る仕事ではない。だからこそ、そこに向き合っていくものは襟を正していきたいし、美味しいものを造りたい。美味しいの基準はひとつではなく、どう美味しいものにするのか?には意識も工夫も必要。うちの蔵の美味しさはこういうものを目指す、という視点や美意識を表現できる酒を造りたい。まだ出会ったことのない味わいを造っていきたいという夢もある」
日本酒の呑み手の裾野を広げていくことは簡単ではなく、これから先、日本酒というものの存在意義をどのように伝えていくか?
そこへの答えは、まだ出ていません。
山根酒造場の酒造りは、分かりやすさや効率とは真逆のモノサシのもとに造られているため、時代の流れの対極にあるといえるかもしれません。いわゆる今の世の中で「日本酒の常識」として伝えられていることとは、ことごとく異なる点も多いです。
この土地にもともとある水、米を人間都合でいじりたくない。余計なものを加えたくない。なるべく不自然なことはしないと決めたうえで、契約農家さんとタッグを組んでの米作りから始まり、蔵の人間の工夫や手間、ゆっくりとした時間をかけることで補えるやり方を、ひとつひとつ試し模索する。
「酒造りは一年に一度しか出来ないから、生きている間にあと何度やれるかもわからない。一度やったことには興味がなくなる。うまくいったことは、そんなに覚えてなくて、失敗したこと、ダメだったことの方が覚える」と、蔵元は話します。
面倒なこと、簡単ではないことに取り組むことを通じて、既存の枠を越えていくことに、喜びや醍醐味を感じる人。
そんな仲間を探しています。
メッセージ
山根 正紀
masanori yamane
(代表取締役社長)
『和醸良酒』
世界中から高い評価を得てきた日本のものづくりですが、その素材から日本産という製品は少なくなっているように思います。資源のない国である以上仕方のないことなのですが、ものづくりの多くが原価を抑える価格による競争力を求めた結果、守らなければならなかった大事なものを喪ってきたことに気づかされます。私は酒造りをそういうものにしたくはありません。
酒造りに関わる資源は、米や水だけではありません。一番大事な“資源”は人だと思っています。この業界にいてよく勘違いされるのが、杜氏だけいれば酒ができると思われていることです。
酒造りの世界は職人がチーム編成を組んで行う共同作業です。日本酒を造るプロセスは思いのほか複雑で、工程ごとに専門職があり、それぞれの工程の職人たちのバトンタッチリレーによって、米と水は酒へと姿を変えていきます。
オーケストラに喩えれば、管楽器・弦楽器・打楽器など演奏者がいて、それらを束ねるのが指揮者であり、酒造りで言えば杜氏に当たります。しかし、指揮者はもちろん、優秀なソリストが一人奮闘して演奏したとしても、美しいハーモニーは生まれません。
酒造りも、米の品種や生産地・気温・湿度など日々同じではない様々な状況において、皆で情報共有しながらひとつひとつの工程の精度を上げて仕上げていきます。時には誰かの小さなミスを、次の工程で補う場面もあったりします。これらを「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)」と言い、私たちが一番大事している格言です。
酒は嗜好品ですから、味の評価は人によって様々だと思いますが、本当に美味しいもの、「本物」は存在します。私も自分なりにですが、そんな本物の酒づくりを目指してきました。とはいえ、そのためには「こうすればよい」という答えはなく、毎年が試行錯誤の連続です。言ってみれば、酒造りはとても“面倒くさい”仕事です。そして面倒くささの先にある面白さこそが、ものづくりの醍醐味ではないかと思っています。
美味しいお酒は、人の心を動かし、出会いを生み出します。それは私たち酒蔵に従事する者に限らず、その酒を使って商いをしてくださる方や、愛飲してくださる方々から届く声となって伝わってきます。生産者と消費者の距離感が近くなった今日、職人である蔵人であっても、製造に携わるだけが仕事ではなくなりました。酒の素晴らしさを伝えるために、酒販店はもちろん、飲食店さんや一般の消費者の方までも様々な催しを企画される時代です。
造って売って終わりではない、人と人のつながりの世界が酒造りにはあることを知っていただき、ぜひこの世界に飛び込んでほしいです。
前田 一洋
kazuhiro maeta
(杜氏)
『風土や作り手を想起させる酒』
山根酒造場に入り14年が経とうとしています。かねてよりものづくりに興味があり、個性的で人によろこばれるものが作りたいと思っていました。現在は酒蔵の杜氏として、また酒米生産者として、ものづくりにたずさわっています。
酒米づくりは、なるべく自然に近いやり方、化成肥料を使わない無農薬でやっているのですが、気候・気温の変化・抑草のタイミング・除草方法の違いで生産量が大きく変動してしまいます。それでも自分のやり方を信じて、少しずつ良い酒米に近づければと思います。良い酒米とはお酒の製造工程においてお米の生命力、力強さを感じるものです。
酒造りは個人技のものづくりではなく、言ってみれば蔵にたずさわる人みんなでの団体技です。酒米をはじめとして、精米・洗米・蒸し・麹・酒母・醪を担当する各々が共通認識を持ち協力し合い、意見を出し合いお互いの意識を高めたいと思います。お互いの信頼・尊重がなくては手直し仕事が増えたり無駄な仕事が増えたりで貴重な時間を失います。そうならないためにも寝起を共にし同じ釡の飯を食う共同生活で信頼・尊重が培われたら良いと思います。
日々作業の最中、お米の力強い生命力・酵母や酵素の複雑怪奇な現象を見て感じることがあります。その時の高揚感は小さな喜びでもあり蔵人皆で共有したいものです。飲んだ時にスッーと身体に馴染んでいき、生産地の水・空気・土や作り手の人柄…といった、そんな“味”を想起させるお酒を造りたいと思います。
久保 智宏
tomohiro kubo
(蔵人)
『人間くさい世界で働くことの面白さ』
大学入学後すぐに、家から近いという理由で選んだ飲食店のバイト。
日本酒の良くないイメージが植えつけられる前に真っ当な日本酒と出会い、そこから提供する側の楽しさ難しさを経験し、作る側に興味を持つまでに至るなんて。
本当にどんなところに人生のターニングポイントがあるかなんて、分からないものだなと振り返ってしみじみ思う。
それから酒造りの世界に飛び込み、島根の酒蔵で10年、山根酒造場で3年が経ち14年目のシーズンを迎えようとしている。
実際に酒造りの現場に入ってみると楽しいことばかりではないのは当たり前だが、目に見えない様々な生き物の存在を肌で感じられる特別な世界であることは間違いない。
目に見える米や醪(もろみ)の状態、触ったときの感触や温度、その時々に発せられる香りや味を人間が持っている感覚器官を総動員して感じとる。そこに先人達からの知恵と自分が経験し蓄積してきたものを混ぜ合わせて、目に見えない麹菌や酵母のご機嫌を伺う。
不安と期待と納得と?で頭がいっぱいになった頃、産まれたお酒のご褒美が!
数学のように明確な正解があるわけではなく、とても感覚的で官能的で、ストイックだけどメリハリがある。
そんな魅力がある人間くさい世界だと思う。
權田 紘知
hironori gonda
(蔵人)
『日置桜でしか造ることが出来ない酒』
日本酒造りの印象とは、どのようなものでしょうか?
例えば、重労働で朝も早く、体力的に辛いのではないかという印象をお持ちだと思います。確かに一人でやるならば、そうなのかもしれません。しかし、蔵が目標としている酒造りに対して、一丸となって取り組むことで、体力・精神的にも余裕を持って良い酒造りが出来ます。
造りの最中に、搾ってすぐの酒を口に含んだときは、言葉で表現出来ない達成感が味わえます。また、酒の美味しさはもちろんのこと、酒米生産者の方の米栽培に対する熱意を感じることが出来ます。
同じ工程を経ても生産者ごとに、酒は違う顔を見せてくれます。これが酒造りをしている際に、面白く感じる点です。
近年、異常気象がよく取り沙汰されますが、米造り、酒造りも気象によって著しく左右されてしまいます。また微生物を扱う酒造りは、人間の思い通りにコントロールしきれない部分も多く、再現性のない日本酒造りですが、日置桜は今年も美味しい酒だと感じて頂けるよう日々努力しています。
私が鳥取県に腰を据えたのは、2016年のことでした。住み始めて感じたことは、砂地の地域を除いた耕作地は、畑よりも田んぼが圧倒的に多いことです。
鳥取県は中国山地から日本海に注ぐ清流が豊富で、古くから美味しい米どころとして知られています。優れた米、洗練された水がある鳥取だからこそ、造ることが出来る日本酒があります。
私は日置桜で蔵人になるまで日本酒の知識は全くなかったのですが、ここで働き始めて酒職人の仕事への姿勢を見て感動を覚えました。日本酒業界は苦しい状況ですが、この伝統文化を重んじて日本酒の素晴らしさを伝えていきたいと思っています。
一緒に酒造りをやりましょう。
募集要項
- 募集職種
- 日本酒製造(蔵人)
- 雇用形態・採用予定人数
- A)正社員 1名
B)季節雇用 1名 - 給与
- A)正社員 月給 18万円から(製造期間は8万円程度手当が加算され ます)
B)季節雇用 日給 1.2万円から(11月中旬~3月中旬/朝5時から17時までが基本) - 福利厚生
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- A)正社員
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- 保険(健康・雇用・労災)
- 賞与年2回
- 交通費 全額支払い
- 住み込み宿舎有り
- まかない3食付き(冬季製造時期のみ)
- B)季節雇用
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- 保険(雇用)
- 交通費 全額支払い
- 住み込み宿舎有り
- まかない3食付き(冬季製造時期のみ)
- 仕事内容
- 日本酒製造工程全般
- 勤務地
- 鳥取県鳥取市青谷町大坪69-1 有限会社山根酒造場 製造蔵
- 休日休暇
- 変則(詳細おたずねください)
- 応募資格
- 20歳以上50歳未満、経験の有無は問いません。 普通自動車運転免許(オートマ限定不可)
※平成29年3月以降に免許を取得された方の場合、準中型免許があり2トン車の運転が可能な方 - 求める人物像
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- 協調性があり、体力に自信がある方
- 手仕事のものづくりに興味のある方
- 未経験者であっても純粋に酒造りに向き合う気持ちのある方ならば、歓迎です。
- 一年目は雑用や下働きのように感じる仕事も多いかもしれませんが、酒造りは経験を積み重ねていくことで初めて見えてくることがたくさんあります。そのため、できるだけ長くこの仕事をしてゆこうという意志のあるかたを希望します。
- 募集期間
- 2022/8/10~2022/9/30
選考の流れ
- 書類選考
- 履歴書(写真貼付)、職務経歴書を下記住所までご送付ください。
- 〒689-0518
鳥取県鳥取市青谷町大坪69-1 有限会社 山根酒造場
総務担当:船越 - 書類選考後、郵送にて選考の結果をすべての方にお知らせ致します。
- 面接
- お電話にて面接日時を相談のうえ決定
- 採用結果の通知
- 面接の結果をすべての方にお知らせし、採用が決定。
・取得した個人情報は、採用選考にのみ使用します。
・不採用理由についての問い合わせにはお答えできませんのでご了承ください。