◉保護猫活動の実態
我が家の猫との付き合い方がなんとなくつかめ、ひと段落してくると、今度はいまの世の中で猫たちが置かれている状況に興味が湧いてきました。靖子さんから保護猫活動の実際を聞くうちに、「とにかく猫が好きで人間に捨てられて衰弱していく命をほおっておけない」「猫たちに安心して暮らせる居場所を見つけて、猫と人との信頼できる縁を結び直したい」といったボランティアさんたちの善意に活動が支えられていること、一部寄付はあるにせよ、ほぼ持ち出しでご飯代、猫砂代、動物病院にかかる費用などを捻出していること、一人で数十匹の猫を保護しているボランティアさんもあることなどを知りました。
また、TNR(Trap・Neuter・Returnの略)と呼ばれる、過剰な繁殖を防ぐために捕獲した猫の去勢手術を済ませてから、もといた場所に返し「地域猫」として一代限りの“猫生”を送ってもらう活動があることも教えてもらいました(手術を受けた猫は片耳の耳先を桜の花びらのように小さくV字カットをいれるので「さくら猫」と呼ばれています)。猫に去勢手術をすることには賛否両論あるかと思いますし、私も色々考えるところはありますが、生まれてきた命が次々に殺処分される最悪の道をたどるのを防ぐための段階的方策なのかもしれないと個人的には感じました。
TNR(地域猫活動)の様子
しかしこれだけ多くの活動をされていても、周囲に活動の本質が理解されるとは限らず。猫を好きな人もいれば嫌いな人もいるのは当然ですが、本来、猫にまつわるトラブルは地域の課題のはずが、いつの間にか「猫好きなあなたたちが解決すればいい」と課題を丸投げされ、迷惑片づけ屋のように認識されていることもあることを知り、これではいくら気持ちがあっても活動を長く続けていけば、関わっている人みんなが疲弊していくし、猫たちにとっても継続的なご縁つなぎの場を維持するのは難しいのでは?と思うようになりました。
◉自力でも活動資金を生み出せる体制へ
日本という社会において、「ボランティア」という響きはどこか美しく、活動を「ビジネス」と結びつけることに嫌悪感を抱く方もあるかもしれません。動物の命に関わることをお金にするの?と感じる人だっているだろうことも重々承知の上ですがー今、「猫じゃらし」は活動を持続していくために、自分たちでも利益を生み出せる自走型の組織を目指して次のステージに移る準備を進めています。
購入したばかりのコンテナ猫ハウス
もちろん助走期間が必要ですし、そう簡単なことではないかもしれない。それでも、このままでは無理だ!と感じたなら行動を起こすしかない。靖子さんと何度か話をするうちに、福ねこを送り込んでもらって幸せを一方的にいただくだけでなく、私たちにも「何かささやかでもできることがないものか?」と考えるようになりました。
◉我々に何ができるのか?
保護猫活動をされている他の団体の活動を調べてみると、オリジナル商品を作ることで得た利益を活動費に回しているところはすでにあり、Tシャツや色々なグッズを作ったりして、みなさん工夫をされています。そんななかで、靖子さんと私の共通した見解は、残るモノもいいけれど、人の好みもある世界なので、食べたり飲んだりして良い意味で消えていく(実際には消えたようで、その人の一部に変わっていく)、そんなものが作れたらいいねというものでした。
靖子さんは、ご自身でお米と自然食品のお店を営むだけでなく、ご実家では農家で米や、小麦、野菜を育てておられます。食べたり飲んだりすることで、人の体にエネルギーとして関与することができて、元気や潤いを与えるもの……突き詰めて考えていくうちに、山根酒造場の純米酒と猫がタッグを組んでできることがあるのでは?という思いが湧いてきました。そこで、しばらく考えを温めたのちに、ダメ元で夫であり山根酒造場の代表である山根正紀に相談してみることにしました。